【中野信治のF1解説/第20戦】感動すら覚えた40歳アロンソの執念の走り。最強のクルマを手にしたハミルトン

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By Auto News on Nov 28, 2021 at 3:12 PM
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     フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅選手のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点でお届けします。今回はF1初開催となった第20戦カタールGPを舞台に、圧倒的な速さを見せたハミルトンに105戦、7年ぶりの表彰台獲得の走りを見せたアロンソ、そして角田選手への残り2戦に向けて、中野氏が解説します。

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     初めての開催となった2021年F1第20戦のカタールGPですが、ロサイル・インターナショナル・サーキットの印象はコース図だけを見るとそれほど速いサーキットではないのかなと思いましたが、蓋を開けてみると中速~高速コーナーが多いレイアウトでしたね。

     低速と思えるコーナーはひとつくらいしかなく、それ以外は空力をガンガン効かせていかないといけない、コーナリングサーキットでした。路面はほぼフラットで、コース外も舗装されて走れてしまう雰囲気があるので、コース幅を思いきり広く使っていく場面が多く見られました。その分、ミスで飛び出すシーンもありましたが、ドライバーにとっては走っていて気持ちよさそうなサーキットでしたね。

     そのなかで予選からルイス・ハミルトン(メルセデス)が圧倒的な速さを見せていました。このコースは後半の高速コーナー区間が特徴的ですが、メルセデスとレッドブル・ホンダの両チームで、どの部分が速い・遅いかと言うと、今回も特に小さいコーナーでメルセデスが速さを見せました。メルセデスはターン4、ターン7の低速コーナーで速く、高速コーナーでもレッドブル・ホンダに対して互角か若干速いくらいの感じでした。

     今回のカタールGPを見ていて思ったのは、やはりメルセデスの方がクルマがよく曲がっているということです。前戦のブラジルGPと同じで舵角も非常に少なく、クルマを曲げていました。予選ではハミルトンとマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のデータ比較が表示されていましたが、そこではブレーキングでもメルセデスの方が奥まで行けていて、ブレーキを抜いていくところからフロントが入って(曲がってい)いく感じがあって、明らかにメルセデスの方がフロントが入っていました。

     メルセデスのクルマは、コーナーの進入で奥まで突っ込んでも短いブレーキングと制動距離で終わらせることができる。チームメイトのバルテリ・ボッタスと比べてもハミルトンの方がブレーキの踏力が強くて、短い制動距離でクルマを止めているのですが、それでもクルマが安定しています。安定している=クルマがドシッとしてしまうので、通常ならフロントが入って行かないはずですが、今回のメルセデスとハミルトンはフロントがよく入っています。

     ブレーキを遅らせれば遅らせるほどリヤがナーバスになり、今度はアンダーステアが待っています。ですので、当然ブレーキを遅らせれば遅らせるほど、ブレーキを踏んでいる時間が長くなってしまい、結局マシンを止められなくなってしまうのですが、今回のハミルトンのクルマは、よく止まってよく曲がってという最強のクルマになっていました。

     このクルマの傾向は前戦のブラジルGPでも同じだったのですが、レッドブル・ホンダ側としては心配していたことが起こったといいますか、不安が的中してしまいました。今回も予選でのスピード、決勝でのラップタイム、それぞれハミルトンがフェルスタッペンを圧倒していました。

     レース中、少しだけフェルスタッペンがペースアップしてトップのハミルトンに近づくかなという場面もありましたが、それはすべてハミルトンにコントロールされているだけで、すぐにギャップが広がりました。ハミルトンはよく曲がる=クルマの向きを変えやすくてアクセルも早めに踏めるクルマなので、トラクションもすごくいい。なおかつフロントタイヤの減りも少ない、フロントに無理を掛けないのでリヤタイヤの持ちもよく、トラクションも守れる。

     そのハミルトンのペースに付いていこうとすると、レッドブル・ホンダはもともとアンダーステアが強いのでフロントタイヤを壊しやすくて(グリップダウンが大きくて)、アンダーステアを消そうと早めにアクセルを踏むと後ろが流れてリヤタイヤも壊してしまう。今回の状況ではレッドブルに勝ち目はなかったですね。フェルスタッペンには予選のイエロー区間での減速に従わなかったとして5グリッド降格ペナルティが科せられましたが、それがなかったとしても今回の結果には関係がなかったと思います。

     フェルスタッペンも早い段階で2番手まで上がれたので、それほどタイヤをいじめることなくポジションを上げました。そこから互角の勝負ができるのかと思いきや、ハミルトンがフェルスタッペンとの間隔を完璧に見つつ、タイヤもマネジメントして、必要とあらばタイムをポンッと上げる。いやらしいくらいの戦い方でしたね。

     ハミルトンはもう今回は200%勝ちに行っていて、余計なことは一切せず、フェルスタッペンが早めのピットストップ作戦を仕掛けてきても、そちらに合わせて『どうやっても自分たちが勝つ』という戦い方を見せました。チャンピオンシップを獲りにいくことだけをを考え、本当に1ミリのリスクも犯さない。その意志が強く感じられました。
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    2021年F1第20戦カタールGP決勝スタートシーン(ルイス・ハミルトン、ピエール・ガスリー、フェルナンド・アロンソ)

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     そして、今回はドライバー・オブ・ザ・デーにも選ばれましたが、7年ぶりの表彰台を獲得したフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)の走りですよね。アルピーヌはアルファタウリ・ホンダとコンストラクターズ5位を争っているわけですが、アルピーヌとアルファタウリ・ホンダの争いも注目でした。

     金曜の走り始めはピエール・ガスリーがFP1、FP2で2番手になるなどアルファタウリ・ホンダの方が好調そうに見えましたが、レースが終わると真逆の結果になっていました。金曜フリー走行ではアルピーヌは全体のタイムはそこまで上にいませんでしたが、ロングランのペースではアルピーヌがすごく良くて、いい流れが見えていましたね。それに対してアルファタウリ・ホンダは、一発のタイムは出ていましたがロングランのペースがそこまで良くありませんでた。

     予選のデータを見ると、アルファタウリ・ホンダはストレートスピードが速かった。直線だけではなく、ミディアム~高速コーナーでのスピードもすごく良く、「アレっ」というくらい速かったです。おそらくダウンフォースをかなり削って走行していたのだと考えられます。ダウンフォースを削ってもタイヤのグリップ感は出せていたので、足回り、サスペンションセッティングも決して悪くはなかったと思いますが、ただ決勝になると燃料を満タン近く積みます。

     一発の予選タイムに合わせたようなセットアップだと、レースで燃料を積んだ重い状態ではタイヤをいじめてしまいます。周回を重ねていくとタイヤの内圧と表面温度が上がり、タイヤのグリップは落ちてどんどんと滑るようになっていきます。そのときにダウンフォースがないとクルマを抑えつけるものがないので、その状況がさらに酷くなります。そうなるとタイヤのデグラデーション、摩耗が、どんどんと悪循環に陥ってしまい、加速度的に悪くなってしまいます。予選までは結果的に上位にいたアルファタウリですが、レースでは悪い方向に行っているように見えました。

     ロサイル・インターナショナル・サーキットは連続しているコーナーが多いので、もともと少なめのダウンフォースで走っている状況で混戦の場所に入ってしまうと余計にダウンフォースを失ってマシンのコントロールが難しくなります。セットアップの部分では、アルピーヌもフリー走行のときはあまり良さそうに見えませんでしたが、裏を返せば初めてのサーキットで、ピット戦略でもどのくらいタイヤが持つか、1ストップか2ストップかを含め、みんなデータがない状況です。そのなかで、決勝寄りのセットアップで金曜から黙々と作業を進めていたのがアルピーヌで、どちらかというと予選重視でセットアップをしていたのがアルファタウリ・ホンダなのかなと思いました。

     そのアルピーヌのマシンを駆るアロンソですが、ソフトタイヤでスタートしたアルファタウリが10周過ぎにタイヤを替えているなか、同じソフトタイヤで23周まで走れるのはまさに『スーパー』でしたね。見ていて感動的ですらありました。周りのソフト勢がどんどんとタイムを落としてピットインするなか、アロンソはタイムを落とさず自己ベストを記録していった。燃料が軽くなってくるというのもありますが、クルマが決まっていて、かつタイヤのマネジメントを本当にうまくやらないとできない芸当です。
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    3番手グリッドからスタートでガスリーを抜き、一時2番手まで上がったアロンソ(アルピーヌF1)

     それをフリー走行から決勝に向けてうまくクルマを作ってきたという部分と、あとは決勝のドライビングの部分でうまくタイヤを守るという見事な技術を見せてくれました。タイヤを守るといっても、攻めてないかと言うとそうではないですし、ペースをそれほど落とすことなくタイヤをマネジメントして、きっちりとタイヤを残したまま1ストップ戦略が可能になるまで周回数を引っ張った。これこそ、タイムを落とすことなくタイヤを持たせたアロンソの技、熟練のテクニックです。スタートで2番グリッドのガスリーをオーバーテイクした走りも、アグレッシブかつラフではない、相手のミスを誘ってきちんと追い抜くというアロンソらしいオーバーテイクでした。

     今回の走りを見ても、改めてアロンソは『規格外』と言っていいドライバーかもしれません。今回のロサイル・インターナショナル・サーキットは中高速コーナーで、身体的にベテランには厳しいサーキットでもあります。最後の右コーナーと次の左コーナーに関しては全開ではいけないコーナーで、微妙にスロットルを抜いたりシフトダウンをする難しいコーナーなのですが、そういったコーナーでは必ず若手ドライバーとベテランドライバーなどで差が出ます。

     ハミルトンとボッタス、フェルスタッペンとセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)もそのコーナーで結構差が出ていました。ですが、そういった高速コーナーでも今回のアロンソは非常に速かった。何と言ったらいいか……僕も見ていてジーンとくるような『本当にこのアロンソというドライバーは凄いな』と。今さらながら『この年齢でこんな走りができるのか』と感動すらしました。

     アロンソは状況によって、モチベーションが上がったり下がったりしていたドライバーですが、最終的にはこうしてモチベーションを戻してきます。その根底にあるのはやはり『負けず嫌い』に尽きると思います。ハミルトンとフェルスタッペンもかなりの負けず嫌いなのですが、アロンソはそれにも引けを取らない負けず嫌いでモチベーションを保ち続けているという凄さ、それに今回は痺れました。

     レース中にはチームメイトのエステバン・オコンに向けて無線でエンジニアに『(後ろを)ライオンのように守れと伝えてくれ!』と鬼ブロックを要請していましたが(苦笑)、それも執念ですよね。この言葉にアロンソの負けず嫌いというのが集約されていたと思いますが『絶対に負けたくない』、『3位の座を明け渡したくない』というガッツといいますか意志といいますか、あの強い気持ちは全ドライバーが見習うべきだと思います。特に日本のドライバーたちには、あのモチベーションに何かを感じて欲しいなと思います。
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    2021年F1第20戦カタールGP 2位マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)と3位フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)

     今も昔もアロンソの『負けず嫌い』に関連する行動には賛否両論ありますが、そこにはいろいろなことを覆すだけのエネルギーがありますよね。あの年齢とキャリアがそれをできるポジションにいさせてくれているということもありますが、それを作り上げるには、アロンソがもともと持っているキャラクターや強さがないとできないことです。

     今回もただ単にコメントが面白いだけではなく、そこに確固たる裏付けとキャリアがあるからその言葉がより活きてきます。過去のこともすべてひっくるめて見て、そのうえで今回のレース後の「信じられない。7年ぶりの表彰台だ。やっとだよ!」というインタビューを聞いていると、泣きそうになると言ったら大げさですが、中継の解説中でしたが言葉を失って黙ってしまいました。

     ベテランのアロンソがあれだけの走りを見せて、他のドライバーたちだけでなく、自分自身にも活を入れたくなります。40歳のアロンソは今のF1界では本当におじさんと言っていいほどの年齢になって来ていますが、『まだやれる』という気持ちを持ち続けることがやはり大事なんだなと。いろいろと考えさせられるアロンソの7年ぶりの表彰台でした。

     最後に角田裕毅選手(アルファタウリ・ホンダ)ですが、今回はフリー走行からチームメイトであるガスリーのポジションに近づいて来ていました。クルマも自分の好みに近づいてきているんだと思いますし、予選を含めて本当にうまくまとめていましたが、レースの前半ではタイヤのマネジメントなどに苦労していました。そのあたりはガスリーがうますぎるということもあります。ガスリーのもともとのタイヤマネジメントや使い方、セットアップの仕方というのは細かくて絶妙です。

     日本のスーパーフォーミュラでは2017年にTEAM MUGENに乗っていたときの話をいろいろと聞いていますが、当時のスタッフからもやはりガスリーは凄かったと聞いています。角田選手がその粋に到達するには、もう少し時間が必要なのかなと言わざるを得ません。ただ残り2戦ありますし、一発の速さという部分では次戦のサウジアラビアはお互いが初めてのサーキットなのでチャンスがあると思っています。

     今のガスリーは自信を持って走っているので、角田選手にはその自信を少しでも打ち砕くような走りを見せて欲しいです。角田選手には毎回のように言っていますが、予選でもレースでもいいので、ガチンコ勝負で一度ガスリーをやっつけておかないと来年に向けての流れが作れなくなります。2021年シーズンは残り2戦ですが、引き続き、本当に集中してやってほしいですね。

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    中野信治(なかの しんじ)

    1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
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